地獄絵略説




制作年代不詳。但し、巻一「九相図ー新死」の衣服等により江戸時代初期の終わりか中期の初め頃と考えられる。彩色は岩彩。金の 彩色は、金泥ではなくすべて金箔を用いているため、現在でも鮮明な絵柄となっている。作者名がないわけは、仏菩薩に対して世俗の 名前を併記することを遠慮したものと見られ、当時の作者の信仰の深さが伺われる。「十王経」に、死者は7×7=49日の毎7日、100ヶ 日、一周忌、三回忌に順次十王庁において罪の裁きを受けるとある。その様子を絵にしたのが「十王曼陀羅」(一般に地獄絵)で、雲祥寺の 絵図には新死から骨散までの「死の九相図」も併せて描かれている。

巻一 泰廣王(本地仏 不動明王)
絵図左上の新死によって死出の山の山登りから始まる。道の両側に桜が咲いているが、桜は古来よりこの世とあの世の境目に咲く花と言われている。 下り坂になると花は散り木は枯れているが、これは死者が冥土に着いたことを表している。冥土ではまず葬頭河の婆に会う。別名脱衣婆ともいい、亡者 から衣服を取り上げる。衣服とは着衣のみならず、現世における名誉財産など、亡者の持っていたすべての物の総称で ある。いわゆる”はだか”となって十王の裁きと地獄の責め苦をうけることになる。希に罪軽くして雲や蓮華台に乗り 極楽へ行くものもある。
巻ニ 初江王(本地仏 釈迦如来)
この巻には”賽の河原地獄”がある。十歳に満たない子供が河原の石を積んで回向の塔を作るのが初江王から課された贖罪の仕事で、 それを崩して責めるのは地獄の鬼。慈悲の救いの手をさしのべるのが地蔵菩薩。
巻三 宋帝王(本地仏 文殊菩薩)
畜生、修羅の地獄と殺生の地獄。
巻四 五官王(本地仏 普賢菩薩)
壮絶な地獄の責めの図。
巻五 閻魔王(本地仏 地蔵菩薩)
太宰治の作品「思ひ出」に出てくるのがこの巻。しらを切っていたのが”浄玻璃の鏡”によって罪を明らかにされる。嘘をついた罪で 舌を抜かれる。タケから説明され幼い修治の心に深い印象を残し、太宰文学の原風景と言われる一巻。閻魔大王の左には泰山府君と黒闇天女 、左下には釈尊の弟子神通第一目連尊者の母対面の様子が描かれている。
巻六 変成王(本地仏 弥勒菩薩)
同じく地獄の責め。左下には酒の滝があり、溺れ苦しむ酒亡者が描かれている。
巻七 大山王(=泰山府君)(薬師如来) 平等王(観音菩薩) 都市王(勢至菩薩) 五道転輪王(阿弥陀如来)
四王と四仏がまとめて描かれている。中ほどに衆僧によって諸亡者供養の様子が描かれている。供養の功徳によりつぎつぎと亡者が成仏してゆく。 その下に両頭蛇の地獄図がある。不邪淫戒を犯した男が双頭の女にからまれて苦しんでいる。